鹿になった観音さま

[童話]鹿になった観音さま


    鹿になった観音さま  10


「いません。多分いないと思います。わしも、初めて
みました。その鹿は、美しい黄金色の鹿でした。しか
も、びっくりするような大きな鹿。その鹿が、突然わし
におそいかかってきたのです。わしは、その鹿を、弓
でいとめました」
「三郎さ、そのいとめた鹿は、どうしたのじゃ」
「和尚さま。その鹿は・・・」
「どうした。三郎さ」


「目の前から、姿が消えてしまったのです」
「何? いとめた鹿が、消えてしまったと。三郎さ、夢
でもみていたのではないのか」
和尚がいいました。
「いいえ、和尚さま。夢なんかみていません」
三郎が、きっぱりいいました。
「そうか」


            つづく