2021-01-01から1ヶ月間の記事一覧

火とぼし山

[童話]火とぼし山 第六章 湖を泳ぐ娘 8 その後。 きよが、次郎の所へたどりつく時間が、だんだんに早 くなりました。 会うたびに、十分二十分と、早くなっていったのです。 「きよちゃん。今夜は、ずいぶん早かったね。いつもよ り早く家をでたの」 ふしぎ…

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[童話]火とぼし山 第六章 湖を泳ぐ娘 7 そして、「きよちゃんは、おらがともす火を目印に、こ こへたどりついているのだな」と、次郎は思いました。 「次郎さん、魚よ」 「魚?」 「泳いでいる途中、つかまえたの。後で焼いて食べ よう」 きよは、次郎に魚…

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[童話]火とぼし山 第六章 湖を泳ぐ娘 6 「だいじょうぶ、次郎さん。気をつけて泳ぐから。今夜 は明るかったから、泳ぎやすかったわ。湖の水が、き らきら光って、とてもきれいだった」 きよがいいました。 「きよちゃん。いくら明るくても、昼間とはちがう…

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[童話]火とぼし山 第六章 湖を泳ぐ娘 5 「次郎さん、こんばんは」 「きよちゃん。今夜は、ずいぶん早かったね。どうし たの」 「私、湖を泳いできたの」 「えっ、湖を?」 次郎は、驚いて聞きました。 みると、きよの髪から、しずくがぽたぽたとたれてい ま…

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[童話]火とぼし山 第六章 湖を泳ぐ娘 4 すると・・・。 「あっ、次郎さんだ。約束通り、火をたいてくれたの ね。ありがとう、次郎さん。今、行くからねー」 きよが、大声でさけびました。 みると、西の山に、小さな火がともっています。 「あの火が、二人の…

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[童話]火とぼし山 第六章 湖を泳ぐ娘 3 「私には、きよの気持が、よくわかるわ。危険をおかし てまでも、一分でも早く、大好きな人に会いたいとい う気持。男のあなたには、わからないでしょうね」 手長がいいました。 「わしにだって、わかるさ。でも、こ…

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[童話]火とぼし山 第六章 湖を泳ぐ娘 2 月あかりに照らされてみえたもの、それは湖を泳いで いる娘の姿でした。 娘は、頭に荷物をのせ泳いでいます。 「どこの娘じゃろ」 近づいてみると、きよでした。 「誰かと思ったら、きよか。湖に氷がはれば、氷の上 …

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[童話]火とぼし山 第六章 湖を泳ぐ娘 1 月のきれいな夜でした。 手長と足長は、諏訪湖で魚をとっていました。 手長は、魚をとるのが上手でした。 今夜も、大きな鯉を三匹もつかまえました。 「ねえ、あなた。明日の朝、この鯉を明神さまに届け ましょう」 …

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[童話]火とぼし山 第五章 次郎の見合い 13 次郎、おまえのことをいちずに思っているきよのこと を、忘れてはならないぞ。おまえのことを、あんなに 思ってくれるおなごは、ほかにいないからのぅ」 明神さまは、心の中で次郎に話しかけました。 「きよと次…

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[童話]火とぼし山 第五章 次郎の見合い 12 「誰なの?」 「そんなこと、知り合ったばかりのみよちゃんにはいえ ない」 「次郎さんは、その人と結婚するの」 「まだ決めていない」 「じゃあ、私ともつきあって。ね、いいでしょ。次郎さん」 二人の話を聞い…

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[童話]火とぼし山 第五章 次郎の見合い 11 「これは、一体どういうことなのじゃ。わしには、さっぱ りわからん」 明神さまは、小声でつぶやきました。 そして、桑のかげから、二人の様子をじっとみていま した。 次郎とみよは、楽しそうに話をしています。…

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[童話]火とぼし山 第五章 次郎の見合い 10 「きよが、次郎に会いにきたのだろうか」 明神さまは、そう思いました。 でも、きよではありません。 みたことのない娘でした。 明神さまは、あわてて桑のかげにかくれました。 「次郎さん、こんにちは」 「みよ…

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[童話]火とぼし山 第五章 次郎の見合い 9 次郎さんが、その人を好きになったらどうしよう。 私は、次郎さんに捨てられてしまうのだろうか。 きよは、不安な気持で、毎日をすごしました 十日がすぎました。 明神さまは、いつものように、村内のみまわりに行…

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[童話]火とぼし山 第五章 次郎の見合い 8 きよは、「とてもおもしろい人」「大きな農家の一人娘」 「養子」ということばが、気になりました。 貧乏なわが家と違い、その人の家は裕福なんだろう なと、きよは思いました。 「次郎さんは、これからもその人と…

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[童話]火とぼし山 第五章 次郎の見合い 7 次郎の見合いの話など、きよは聞きたくありません。 でも、気になってしかたがなかったのです。 「うん。した」 「次郎さんは、その人と会わないといったのに、どう して会ったの」 「きよちゃん、ごめん。おれ、主…

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[童話]火とぼし山 第五章 次郎の見合い 6 次郎さんたら、一カ月ぶりに会ったというのに、見合 いの話などして、どういうつもりなのかしら。いやな 次郎さん。 でも、次郎さんがこっそり見合いをしたら、それもい やだろうなと思いました。 私は、小さな時か…

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[童話]火とぼし山 第五章 次郎の見合い 5 「今、野良の仕事が忙しい。だから、今度会うのは、 一カ月後かな」 「一カ月後? そんなのいや。私、毎日でも次郎さん に会いたい」 「きよちゃん。毎日なんて無理だよ」 「次郎さんは、私と会うのがいやになったん…

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[童話]火とぼし山 第五章 次郎の見合い 4 「ことわったけれど、どうしても姪と会ってほしいとい うんだ」 「次郎さんは、その人と会うつもりなの」 「いや、会うつもりはない。おらには、きよちゃんとい う大事な人がいる。だから、会うつもりはない」 次郎…

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[童話]火とぼし山 第五章 次郎の見合い 3 「きよちゃん」 「次郎さん、何?」 「おこらないで聞いてくれる」 「何なの、次郎さん」 「きよちゃんには、今まで何でも話してきた。おれ、 かくしごとをしたくないので、おもいきって話す。 きよちゃん、おこら…

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[童話]火とぼし山 第五章 次郎の見合い 2 きよは、次郎の笑顔を思いうかべながら、湖のまわり を足早に歩いて行きました。 一カ月ぶりに会えると思うと、何時間もかかる遠い道 のりも、暗い夜道も、少しも苦になりませんでした。 何時間もかけ、やっと次郎の…

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[童話]火とぼし山 第五章 次郎の見合い 1 一カ月がすぎました。 今日は、次郎と会う日。 きよにとって、この一カ月は、気が遠くなるほど長い 時間でした。 後二十九日、後十五日、後八日・・・と、次郎に会え る日を指おり数えて待っていました。 「次郎さん…

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[童話]火とぼし山 第四章 一ヶ月に一度の出会い 11 「きよ。次郎君と、けんかでもしたのかい」 「とうちゃん。私たち、けんかは一度もしたことはな いわ。次郎さんは、野良の仕事が忙しいの。だから、 会えないんだって」 「そうか。それならいいけれど。…

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[童話]火とぼし山 第四章 一ヶ月に一度の出会い 10 「大好きな二人が、一カ月も会えないなんて、つら いだろうな。なんで会えないのじゃろ。 娘が青年に会いたいと思うのも、無理はないのぅ」 娘の後姿をみながら、明神さまは小声でつぶやき ました。 「娘…

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[童話]火とぼし山 第四章 一ヶ月に一度の出会い 9 「娘よ。青年と仲良くしたまえ。けんかをしたのなら、 一日も早く仲直りしなさい。けんかが長びくと、ろく なことはないからのぅ」 明神さまは、心の中で娘に話しかけました。 数日後。 明神さまは、湖のほ…

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[童話]火とぼし山 第四章 一ヶ月に一度の出会い 8 何日ぶりじゃろ。あの夜は、あの娘、とてもうれしそう な顔をしていたのに、今日はなんだか元気がない。 どうしたのじゃろ。青年とけんかでもしたのかな」 明神さまは、奥さんの所から、上諏訪のやしきへも…

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[童話]火とぼし山 第四章 一ヶ月に一度の出会い 7 「なぜ話せなかったの」 「なんか、はずかしくて。そんなにしょっちゅう家に帰 るのはおかしいと、主人にといつめられた。だから、 きよちゃんのことを話したんだ」 「そうしたら、なんていったの」 「きよ…

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[童話]火とぼし山 第四章 一ヶ月に一度の出会い 6 「きよちゃんと会っていることが、主人にばれてしま ったんだ。だから、しばらくきよちゃんとは会えない」 「どうして、私たちが会っていることが、わかったの」 「おれ、きよちゃんと会う日には、家に用事…

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[童話]火とぼし山 第四章 一ヶ月に一度の出会い 5 次の朝。 「次郎さん。今度は、いつ会えるの」 きよが聞きました。 「今、野良の仕事が忙しい。だから、今度会うのは、 一カ月後かな」 「一カ月後?」 「そう、一カ月後」 「一カ月も、次郎さんに会えないの。…

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[童話]火とぼし山 第四章 一ヶ月に一度の出会い 4 会うたびに、きよちゃんが持ってくる酒が熱くなって いる。 きよの自分に対する思いが、日ごとに強くなってい ることに気づき、次郎はとまどいました。 きよちゃんの気持は、うれしい。 おらも、きよちゃん…

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[童話]火とぼし山 第四章 一ヶ月に一度の出会い 3 「きよちゃんの手は、温かいんだね。ちょっとさわっ ていい」 「どうぞ」 きよは、手をさしだしました。 その手は、びっくりするほど熱い手でした。 「きよちゃん。熱があるんじゃない? だいじょうぶ」 次…