2021-04-01から1ヶ月間の記事一覧

瑠璃寺の青獅子

[童話]瑠璃寺の青獅子 瑠璃寺の青獅子 20 さわやかな秋になりました。 不動滝のまわりの木々も、赤や黄色に紅葉しはじめ ました。 「仏師に会ってから、五カ月。依頼した獅子頭は、ど のくらいできただろうか」 和尚は、不動滝のそばにある仏師の小屋を訪ね…

瑠璃寺の青獅子

[童話]瑠璃寺の青獅子 瑠璃寺の青獅子 19 やっと、獅子頭が彫りあがりました。 「獅子よ。ようやく彫りあがったぞ。おまえは、わ しが初めて彫った大切な獅子頭じゃ。さあ、獅子よ。 早くでておいで」 男は、大声で獅子をよびました。 そして、彫りあがっ…

瑠璃寺の青獅子

[童話]瑠璃寺の青獅子 瑠璃寺の青獅子 18 苦労したのは、上顎と下顎の部分。 いくら彫っても、うまくいきません。 「あごを彫るのは、むずかしいのう」 男は、あごの部分を、何度も彫りなおしました。 上顎と下顎をきりわけることも、難しい作業でした。 …

瑠璃寺の青獅子

[童話]瑠璃寺の青獅子 瑠璃寺の青獅子 17 「獅子よ。やっと荒彫りが終わったぞ。早く目をさま しておくれ」 男は、いとおしそうに何度も獅子頭をなでました。 荒彫りが終わると、目・まゆげ・鼻・あごなどを、一つ 一つていねいに彫っていきました。 「ほ…

瑠璃寺の青獅子

[童話]瑠璃寺の青獅子 瑠璃寺の青獅子 16 のみがきれなくなると、滝へ行き滝に打たれます。 そして、滝にかかる虹をみながら、男は一心にの みを研ぎました。 のみを研いでいると、ざわざわしていた心が消え、 心が静かになりました。 男は寝る間もおしみ…

瑠璃寺の青獅子

[童話]瑠璃寺の青獅子 瑠璃寺の青獅子 15 荒彫りを始める前に、男は滝へ行き、不動明王にお 参りしました。 「不動明王さま。これから、獅子頭の荒彫りを始めま す。木の中から、元気な獅子があらわれますように」 男は、そう祈りました。 そして、滝にう…

瑠璃寺の青獅子

[童話]瑠璃寺の青獅子 瑠璃寺の青獅子 14 獅子頭のイメージが頭に浮かぶと、男は滝へ行き、 不動明王にお参りしました。 その後、滝へ行き身を清めました。 そして、獅子頭を彫るために、男は小屋にこもりま した。 「獅子よ。早く目をさましておくれ。そ…

瑠璃寺の青獅子

[童話]瑠璃寺の青獅子 瑠璃寺の青獅子 13 「大太鼓・小太鼓・笛を吹く人で、十人くらいかのぅ。 その他に、獅子頭の舞い手が何人か入る」 「そんなに大勢の人が、屋台の中へ入るのですね」 男は、大がかりな獅子舞に驚きました。 「よーし、りっぱな獅子頭…

瑠璃寺の青獅子

[童話]瑠璃寺の青獅子 瑠璃寺の青獅子 12 道具の手入れがすむと、寺へ行き、和尚に獅子頭 をみせてもらいました。 そして、和尚から、獅子舞の様子をこまかに聞きま した。 「たった一本の手綱で、屋台と獅子をたくみにあや つっているのは、宇天王なのじ…

瑠璃寺の青獅子

[童話]瑠璃寺の青獅子 瑠璃寺の青獅子 11 身を清めた男は、数十本ののみを、一本ずつてい ねいに研いでいきました。 仏師にとって、道具の手入れは、とても大切な仕事 でした。 男は、若い時から、いくつもの仏像やお面を彫りま した。 でも、獅子頭を彫る…

瑠璃寺の青獅子

[童話]瑠璃寺の青獅子 瑠璃寺の青獅子 10 「わしは、この木の中に眠っている獅子を、目ざめ さすことができるだろうか。獅子よ、どうか一日も早 く目をさましておくれ」 男は、木の中に眠っている獅子に話しかけました。 木がみつかると、のみやかんななど…

瑠璃寺の青獅子

[童話]瑠璃寺の青獅子 瑠璃寺の青獅子 9 小屋ができると、男は獅子頭を彫るための木を探 して歩きました。 生きているようにみえる獅子の頭を彫るためには、 どんな木でもいいというわけにはいきません。 軽くて、丈夫で、しかも獅子が宿っている木でなく …

瑠璃寺の青獅子

[童話]瑠璃寺の青獅子 瑠璃寺の青獅子 8 滝の高さは、三十メートル。 滝の幅は、約十メートル。 滝の上部には、千畳敷とよばれる花崗岩の巨大な 一枚岩がありました。 晴れた日には、滝一面に太陽があたり、滝から落ち る水しぶきに、美しい虹がかかります…

瑠璃寺の青獅子

[童話]瑠璃寺の青獅子 瑠璃寺の青獅子 7 「そんな獅子頭が、彫れるかどうかわかりませんが、 やってみましょう」 「すばらしい獅子頭ができるのを、楽しみにしていま すよ。来年の春の祭に間にあうようにお願いします」 そういって、和尚は、男に獅子頭を依…

瑠璃寺の青獅子

[童話]瑠璃寺の青獅子 瑠璃寺の青獅子 6 「そうですか。獅子舞をみたいと思ったのに、残念で すな」 男が残念そうにいいました。 「その祭につかう獅子頭を、そなたに作ってもらいた いのじゃ」 「獅子頭ですか」 男は、なぜか迷っています。 「そう、生き…

瑠璃寺の青獅子

[童話]瑠璃寺の青獅子 瑠璃寺の青獅子 5 「この寺では、春の祭に、獅子舞がおこなわれる。五 穀の豊穣や、人々の無事を祈る獅子舞なのじゃ」 「和尚さま。こんないなかで、獅子舞なんて珍しいで すな」 「そうじゃのぅ。瑠璃寺の獅子舞は、滋賀の国・日吉社…

瑠璃寺の青獅子

[童話]瑠璃寺の青獅子 瑠璃寺の青獅子 4 すると、 「せっかくじゃが、この寺には、平安時代につくられ た薬師瑠璃光如来など、すばらしい仏さまがたくさ んおられる。だから、仏像はもういらない」 和尚は、そういってことわりました。 「和尚さま。仏像で…

瑠璃寺の青獅子

[童話]瑠璃寺の青獅子 瑠璃寺の青獅子 3 「そう、まばゆいばかりの薬師如来が、木々の間から すぅーとあらわれたそうじゃ。その神々しい姿をみた 観誉僧都は、いたく感激されてのぅ。それで、この市 田に瑠璃寺を建てたといわれている」 和尚は、寺のいわれ…

瑠璃寺の青獅子

[童話]瑠璃寺の青獅子 瑠璃寺の青獅子 2 「満開の桜を、ぜひみたいものですな。和尚さま。源 頼朝公といえば、鎌倉時代の人。この寺は、ずいぶ ん古いのですね」 「瑠璃寺は、天永三年(1112年)、比叡山竹林院の 観誉僧都(かんよそうず)によって創建…

瑠璃寺の青獅子

[童話]瑠璃寺の青獅子 瑠璃寺の青獅子 1 信州の伊那谷に、何百年も続いている天台宗の古 い寺がありました。 寺の名は、瑠璃寺。 獅子舞と枝垂れ桜で有名な寺でした。 寺からは、南アルプスの山々が美しくみえます。 桜の花が何輪か咲き始めた春のある日。 …

鹿になった観音さま

[童話]鹿になった観音さま 鹿になった観音さま 20 「いつから、石があったのじゃ」 「今、畑に行ったらありました」 和尚は、いそいで畑へ行ってみました。 畑には、大きな青い石がころがっていました。 「みごとな石じゃのぅ。この石は、タケルとチハヤの …

鹿になった観音さま

[童話]鹿になった観音さま 鹿になった観音さま 19 「タケル、チハヤ。さあ、たくさんおあがり」 和尚は、二匹の犬にえさをやりました。 二匹の犬は、よほどおなかがすいていたのでしょう。 あっという間に食べてしまいました。 和尚は、二匹の犬をうれしそ…

鹿になった観音さま

[童話]鹿になった観音さま 鹿になった観音さま 18 和尚は、石になってしまった愛犬に、毎日お経をあ げています。 一ヶ月後。 和尚は、いつものように、石になった二匹の愛犬に、 お経をあげていました。 すると・・・。 「わん、わん、わん」 犬の声がし…

鹿になった観音さま

[童話]鹿になった観音さま 鹿になった観音さま 17 「和尚さま。今日は話があってやってきました」 「三郎さ、話ってなんじゃ」 「和尚さま。わしが持っている田畑や山林を全部寺 に寄進したいのですが」 「何、全財産を寄進してくれると」 「はい、今まで…

鹿になった観音さま

[童話]鹿になった観音さま 鹿になった観音さま 16 そして、二匹の犬にお経をあげました。 二人は、石になった犬たちをつれて、寺へ帰りました。 二週間後。 三郎が、寺にやってきました。 「三郎さ。この間は、世話になったのぅ」 「和尚さま。タケルとチ…

鹿になった観音さま

[童話]鹿になった観音さま 鹿になった観音さま 15 今日限り、鹿狩りをやめます。弓をひくこともやめま す。観音さま、どうかわしをお許しくださいませ」 三郎は、観音さまの前で許しをこいました。 「さあ、三郎さ。石になってしまったタケルとチハヤ を、…

鹿になった観音さま

[童話]鹿になった観音さま 鹿になった観音さま 14 三郎さは、鹿狩りの名人。観音さまは、おつかいをし てくれる鹿がいなくなってしまうのではないかと、心配 されたのかもしれんぞ。実は、わしも、三郎さに殺生を しないようにと忠告しようと思っていたと…

鹿になった観音さま

[童話]鹿になった観音さま 鹿になった観音さま 13 「じゃあ、わしは・・・観音さまに・・・矢をむけたという ことですか」 「そういうことになるかのぅ」 和尚がいいました。 「和尚さま。わしは、おそれおおくも観音さまに矢を むけてしまいました。わし…

鹿になった観音さま

[童話]鹿になった観音さま 鹿になった観音さま 12 「じゃあ、まず観音さまを本尊にお供えしよう」 二人は、本堂へ行きました。 「あっ」 和尚が、大きな声をあげました。 「どうしたのですか。和尚さま」 「三郎さ、みてごらん。十一面観音の頭から、小さ…

鹿になった観音さま

[童話]鹿になった観音さま 鹿になった観音さま 11 「わしは、その鹿をさがして、山の中をあちこち歩き ました。そして、大きな杉の木の根元で、この観音さ まをみつけたのです」 「ふしぎなことがあったものじゃのぅ。それで、うちの タケルとチハヤは?」…