2021-08-01から1ヶ月間の記事一覧

赤い夕顔の花

[童話]赤い夕顔の花 赤い夕顔の花 40 「お母さま」 「長五郎。だいじょうぶですよ」 お万は、長五郎をぎゅっとだきしめました。 長五郎は、ぶるぶるふるえています。 「こわかったのね。かわいそうに」 お万は、長五郎を再びしっかりだきしめました。 茂み…

赤い夕顔の花

[童話]赤い夕顔の花 赤い夕顔の花 39 ところが、下条の追手から逃げまわっているうちに、 お万たちは家臣とはぐれてしまいました。 「奥がたさま」 「奥がたさまー。どこですか」 家臣が、遠くでお万をよんでいます。 でも、大声で返事をするわけにはいき…

赤い夕顔の花

[童話]赤い夕顔の花 赤い夕顔の花 38 お万たちは、下条の兵士たちにみつからないように、 足早に歩いて行きました。 「何、今、百姓の一家が通ったと。それは、奥がたと 若君じゃ。すぐ後を追え」 遠くで、兵士のどなる声が聞こえました。 「奥がたさま。…

赤い夕顔の花

[童話]赤い夕顔の花 赤い夕顔の花 37 すると、向こうから、下条の兵士が二人歩いてきました。 「おい。今、すれちがった百姓の一家、奥がたと若君 ではないか」 「まさか。奥がたが、あんなうす汚い野良着をきている はずがない」 「いや、わからんぞ。変…

赤い夕顔の花

[童話]赤い夕顔の花 赤い夕顔の花 36 「盛永さまや家臣たちが、無事でありますように。も う一度、この城に戻ってくることができますように」 お万は、心の中で祈りました。 「奥がたさま。背中の荷物を、少し持ちましょうか」 「だいじょうぶです。あなた…

赤い夕顔の花

[童話]赤い夕顔の花 赤い夕顔の花 35 一方、奥がたのお万は、幼い長五郎を胸にだき、家 臣とともに城を出ました。 そして、浪合の実家へ向かいました。 お万たちは、下条の兵士たちにみつからないように、 着古した野良着をきて、城を出ました。 誰がみて…

赤い夕顔の花

[童話]赤い夕顔の花 赤い夕顔の花 34 しかし、犬坊は、その声を無視しました。 「盛永さまは、私ひとりのものだ」 そうさけぶと、犬坊は、盛永の心臓をめがけてさしま した。 「うーっ」 盛永が、うめき声をあげました。 胸から、血がふきだしました。 「…

赤い夕顔の花

[童話]赤い夕顔の花 赤い夕顔の花 33 「犬坊。おまえは、この世で一番かわいがってくれた 人に、やりをむける気か。落ち着け、落ち着くのだ。 そんなことをしたら、おまえは一生後悔するぞ」 どこからか、声が聞こえてきました。 「犬坊」 「犬坊や」 盛永…

赤い夕顔の花

[童話]赤い夕顔の花 赤い夕顔の花 32 「お万さまは、ほんとに幸せなかただ。こんな非常時 にも、盛永さまに思ってもらえるのだから」 犬坊は、母のように慕っていた奥がたのお万に、しっ としました。 「落ち着け、落ち着くのだ。たかが、寝言ではないか」…

赤い夕顔の花

[童話]赤い夕顔の花 赤い夕顔の花 31 私は、盛永さまが大好きだった。 盛永さまは、なくなった父にどことなく似ている。 そんな盛永さまを、私は実の父のように慕ってきた。 盛永さまも、みよりのない私をわが子のようにかわい がってくれた。 私は、お万…

赤い夕顔の花

[童話]赤い夕顔の花 赤い夕顔の花 30 「お万」ということばは、盛永の寝言だったのでしょ うか。 「お万。お万は・・・無事か」ということばを聞いた犬 坊は、頭の中が真っ白になりました。 犬坊は、ぐっすり眠っている盛永の口から、そんな ことばを聞く…

赤い夕顔の花

[童話]赤い夕顔の花 赤い夕顔の花 29 私は、盛永さまに「少しは領民のことも考えてくださ い」と、なぜいえなかったのだろうか。 犬坊は、盛永につかえた三年間を思い出し、複雑 な気持になりました。 どのくらいの時間がすぎたのでしょうか。 「お万。お…

赤い夕顔の花

[童話]赤い夕顔の花 赤い夕顔の花 28 「さあ、殿様。少しお休みください」 疲れていた盛永は、いびきをかいて眠ってしまいま した。 犬坊も、盛永のそばで横になりました。 犬坊は盛永やお万・長五郎とすごした三年間を、な つかしく思い出しました。 三人…

赤い夕顔の花

[童話]赤い夕顔の花 赤い夕顔の花 27 「私は、殿様の身近にいたので、殿様の良い所も悪 い所も知っております。領民や家臣たちから、殿様 のことを聞くたびに、なぜ領民のことを思いやること ができないのだろうと、残念に思いました。もう少し 領民のこと…

赤い夕顔の花

[童話]赤い夕顔の花 赤い夕顔の花 26 「いいえ。後悔しておりません。殿様にも、奥がたの お万さまにも、かわいがっていただきましたから。若 君の長五郎さまとも仲良しになれましたし」 「それならいいが。わしは、今まで、領民のことも考え ず、次から次…

赤い夕顔の花

[童話]赤い夕顔の花 赤い夕顔の花 25 「私は、おじから弓とやりを習いました。おじは、若い 時、ある藩につかえていました。私は、弓とやりだけ は、誰にも負けません」 「だから、わしの小姓になってもらったのじゃ。おまえ は、城へ行くのはいやだといっ…

赤い夕顔の花

[童話]赤い夕顔の花 赤い夕顔の花 24 「殿様。あそこに小屋があります。少し休みましょう」 「そうじゃな。少し休むとするか」 二人は、小屋で休みました。 「殿様。私がみはりをしています。少し横になってお 休みください」 盛永は、わらの上で横になり…

赤い夕顔の花

[童話]赤い夕顔の花 赤い夕顔の花 23 「犬坊。家臣たちは、無事に逃げることができただろ うか」 盛永は、家臣たちのことを心配しました。 「殿様が、家臣たちのことを心配している。こんな殿 様をみたのは、初めてだ。城が焼けてしまったので、 殿様は気…

赤い夕顔の花

[童話]赤い夕顔の花 赤い夕顔の花 22 わしは、この五年間、三つの城をつくることに夢中で、 そんなことにも気がつかなかった。城主になってから、 領民のことなど一度も考えたことがなかった。重臣た ちから、領民のことも少しは考えるようにと忠告された …

赤い夕顔の花

[童話]赤い夕顔の花 赤い夕顔の花 21 「殿様。いつも鹿狩りに行くあの山へ逃げましょう。そ うすれば、下条の追手から逃げ切ることができます」 盛永と犬坊は、いつも鹿狩りに行く山に向かって逃 げて行きました。 後をふりかえると、城がめらめらと燃えて…

赤い夕顔の花

[童話]赤い夕顔の花 赤い夕顔の花 20 「さあ、犬坊。城から脱出するぞ」 盛永が、犬坊にいいました。 二人は、下条の兵士たちにみつからないように、こっ そり城を出ました。 でも、兵士たちにみつかってしまいました。 「城主の盛永が、逃げだしたぞ。早…

赤い夕顔の花

[童話]赤い夕顔の花 赤い夕顔の花 19 家臣たちは、城を逃げ出す準備を始めました。 そして、数人ずつ、めだたないように城をぬけだしま した。 ところが、すぐ下条の兵士たちにみつかってしまいま した。 「家臣たちが、城を逃げだしたぞ。早くつかまえろ…

赤い夕顔の花

[童話]赤い夕顔の花 赤い夕顔の花 18 消しても、消しても、次から次へと火の手があがり ます。 城の中は、火の海でした。 城内には、煙がもうもうとたちこめています。 家臣たちは、戦うすべもなく、安全な場所をさがし、 城内をあちこち逃げまわりました…

赤い夕顔の花

[童話]赤い夕顔の花 赤い夕顔の花 17 百本、いや五百本・・・数えきれないほどのたくさんの 矢でした。 「どすん」 城の壁にむかって、大きな石がなげつけられました。 あちこちから、小石もとんできます。 鉄砲の弾もとんできました。 「殿様。城に火がつ…

赤い夕顔の花

[童話]赤い夕顔の花 赤い夕顔の花 16 権現城では、戦の準備もととのわないまま、下条と の戦が始まりました。 下条の軍勢は、数百。 こちらは、城内にいた数十人のみ。 急なことゆえ、かけつけてくれる援軍もありません。 権現城は、たちまち下条の軍勢に…

赤い夕顔の花

[童話]赤い夕顔の花 赤い夕顔の花 15 「さあ、お万。この野良着に着がえ、急いで城をでな さい」 盛永が、お万をせかしました。 お万と長五郎は、うすよごれた野良着を着て、家来と ともに城を出ました。 五分後。 「ぱか、ぱかっ、ぱか」 下条軍のひずめ…

赤い夕顔の花

[童話]赤い夕顔の花 赤い夕顔の花 14 「お万。すぐ実家にもどるのじゃ。関家のためにも、 長五郎をしっかり守るのじゃ。お万、長五郎のこと、 頼んだぞ」 盛永がいいました。 お万は、盛永のいいつけで、浪合の実家に戻るこ とにしました。 「盛永さま。無…

赤い夕顔の花

[童話]赤い夕顔の花 赤い夕顔の花 13 「みなのもの、落ち着けー。落ち着くのじゃ。そして、 みんなで城を守るのじゃ。頼んだぞ」 盛永が、家臣たちにいいました。 家臣たちは、いそいで戦の準備をしました。 しかし、余りにも急なことで、盛永も家臣たちも…

赤い夕顔の花

[童話]赤い夕顔の花 赤い夕顔の花 12 「戦国の世だから、どんなことがおこるかわからない」 盛永は、そう覚悟していました。 しかし、今夜の下条の急襲は、予想外でした。 「ここ数年、下条とはいい関係が続いていたのに。な ぜだ」 盛永には下条時氏がせ…

赤い夕顔の花

[童話]赤い夕顔の花 赤い夕顔の花 11 月見の宴がたけなわになった頃。 「殿様。殿様―」 天守閣でみはりをしていた人が、宴会場へとびこんで きました。 「殿様。大変でございます」 「何ごとじゃ」 「敵が・・・敵がせめてきました」 「何、敵がせめてきた…