2021-03-01から1ヶ月間の記事一覧

鹿になった観音さま

[童話]鹿になった観音さま 鹿になった観音さま 10 「いません。多分いないと思います。わしも、初めて みました。その鹿は、美しい黄金色の鹿でした。しか も、びっくりするような大きな鹿。その鹿が、突然わし におそいかかってきたのです。わしは、その…

鹿になった観音さま

[童話]鹿になった観音さま 鹿になった観音さま 9 三郎には、なにがなんだかわかりませんでした。 夢をみているような感じでした。 「とにかく、和尚さまに知らせなくては」 三郎は、観音さまをもって、急いで寺へ帰りました。 「和尚さま。た、大変です」 …

鹿になった観音さま

[童話]鹿になった観音さま 鹿になった観音さま 8 「何だろう」 近づいてみると、小さな観音さまでした。 身の丈は、二寸(六センチ)くらい。 黄金のように、ぴかっぴかっと光っています。 そして、観音さまの横には、石が二つころがってい ました。 「なん…

鹿になった観音さま

[童話]鹿になった観音さま 鹿になった観音さま 7 矢には、べっとりと血がついています。 「黄金色の鹿は、どこへ行ってしまったのだろう」 三郎は、鹿をさがして、山の中を歩きました。 気がつくと、タケルとチハヤのなき声が聞こえません。 「タケル」 「…

鹿になった観音さま

[童話]鹿になった観音さま 鹿になった観音さま 6 「えいっ」 三郎は、鹿をめがけて弓をひきました。 「ばしっ」 鹿の首に矢がささりました。 「ばたんっ」 大きな音をたて、鹿がたおれました。 「黄金色の鹿をいとめたぞー」 そうさけんだ時、鹿はどこかへ…

鹿になった観音さま

[童話]鹿になった観音さま 鹿になった観音さま 5 すると、 突然、目の前に、びっくりするような、大きな鹿がと びだしてきました。 黄金色の美しい鹿でした。 鹿の体は、黄金のように、ぴかっぴかっと光ってい ます。 「わぁーっ。黄金色の鹿だぁ」 三郎は…

鹿になった観音さま

[童話]鹿になった観音さま 鹿になった観音さま 4 「うー、うー」 「わん、わん、わん」 タケルとチハヤが、大声でほえています。 でも、あたりには何もいません。 二匹の犬は、何にむかってほえているのでしょうか。 「タケル、チハヤ。どうした」 三郎は、…

鹿になった観音さま

[童話]鹿になった観音さま 鹿になった観音さま 3 「和尚さま。タケルとチハヤが、裏山でほえているが、 どうかしたかね」 「三郎さ。ちょうどいい所へきてくれた。すまんが、裏 山をみてきてくれないか」 「和尚さま。タケルたちはいつからほえているのかね…

鹿になった観音さま

[童話]鹿になった観音さま 鹿になった観音さま 2 秋のある日。 「うー、わん、わん」 「わん、わん、わん」 タケルとチハヤが、裏山でけたたましくほえています。 「どうしたのだろう。裏山に魔物でもいるのだろうか」 和尚は、山をみながらいいました。 す…

鹿になった観音さま

[童話]鹿になった観音さま 鹿になった観音さま 1 信州の伊那谷、三穂村に「立石寺」という寺がありま した。 天安元年(857年)に創建された、真言宗の古い寺 です。 立石寺は、伊那西国三十三番札所、第一番の寺。 聖徳太子作といわれる十一面観音像が…

開善寺の早梅の精

[童話]開善寺の早梅の精 開善寺の早梅の精 16 梅の花匂ふ袂のいかなれば 夕暮れごとに春雨の降る 文次は、「あの人の香りが残る袖は、毎夜私の涙で ぬれている」という意味の歌をよみました。 文次は、梅香のことがわすれられなかったのでしょ うね。 この…

開善寺の早梅の精

[童話]開善寺の早梅の精 開善寺の早梅の精 15 すると・・・。 風もないのに、梅の花びらが、ひらひらと文次の上 に舞いおりてきました。 そして、梅の花の香りが、いちだんと強くなりました。 「文次さん。昨夜は、ほんとに楽しかったわ。ありが とう。来…

開善寺の早梅の精

[童話]開善寺の早梅の精 開善寺の早梅の精 14 梅の花が、月あかりに照らされ美しくみえます。 何事もなかったかのように、梅の花の香りが、あたり 一面にただよっていました。 東の空が、だんだんに明るくなりました。 「ちゅん、ちゅん、ちゅん」 すずめ…

開善寺の早梅の精

[童話]開善寺の早梅の精 開善寺の早梅の精 13 女の人は、文次の寝姿をじっとみていました。 しきたへの手枕の野の梅ならば 寝ての朝けの袖に匂はむ 女の人は、「ちぎりをかわす相手が梅の花ならば、翌 朝はとてもよい香りが残っているでしょう」とよんだの…

開善寺の早梅の精

[童話]開善寺の早梅の精 開善寺の早梅の精 12 「どうやったら、こんなに早く、歌がよめるのだろう」 文次は、ふしぎに思いました。 文次が一句よむと、続けて女の人が一句よみました。 歌をよむたびに、女の人は酒と料理をすすめます。 何句よんだでしょう…

開善寺の早梅の精

[童話]開善寺の早梅の精 開善寺の早梅の精 11 そして、酒と料理を持ってきました。 「さあ、文次さん、どうぞ。体が温まりますよ」 女の人は、文次に酒をすすめました。 「うまいっ」 文次は、思わず声をあげました。 こんなうまい酒を飲んだのは、初めて…

開善寺の早梅の精

[童話]開善寺の早梅の精 開善寺の早梅の精 10 「梅香さん。ほんとにおじゃましていいのかな」 文次が、聞きました。 「どうぞ、えんりょなく。おいしいお酒をごちそうしま すよ」 誘われるままに、文次は女の人の後をついていき ました。 文次は、りっぱな…

開善寺の早梅の精

[童話]開善寺の早梅の精 開善寺の早梅の精 9 「わしは、戦が大きらいじゃ。罪もない人を傷つけた り、殺したりするのをみていると、ほんとにむなしくな る。一日も早く、戦のない世の中になってほしいもの じゃ」 「そうですね。平和な世の中になるといいで…

開善寺の早梅の精

[童話]開善寺の早梅の精 開善寺の早梅の精 8 「ところで、文次さん。なぜここへみえたのですか」 「わしらは、今、甲斐の武田と戦っている。だが、開 善寺の早梅がみたくなって、こっそり戦場をぬけだ してきたのじゃ」 「まあ・・・こっそりぬけだしてきた…

開善寺の早梅の精

[童話]開善寺の早梅の精 開善寺の早梅の精 7 女の人は、「昔の美しかった花のおもかげまで、この 梅には残っているようです」と、よんだのでしょうか。 「すてきな歌ですね。ところで、あなたの名前は?」 「梅香といいます」 「梅香さんですか。あなたは、…

開善寺の早梅の精

[童話]開善寺の早梅の精 開善寺の早梅の精 6 「うわさ通り、美しい花じゃのぅ。香りもすばらしい」 文次は、女の人に話しかけました。 すると、女の人は、にっこりほほえみました。 文次は、即興で歌をよみました。 ひびきゆく鐘の声さへ匂ふらん 梅咲く寺…

開善寺の早梅の精

[童話]開善寺の早梅の精 開善寺の早梅の精 5 ( 南枝は暖に向かひ北枝は寒し 一種の春風両般あり) 文次は、梅の花にみとれていました。 ふと気がつくと、目の前に美しい女の人が立っていま した。 女の人は、いつここへきたのでしょうか。 年のころは、二…

開善寺の早梅の精

[童話]開善寺の早梅の精 開善寺の早梅の精 4 「うわさに聞く開善寺の早梅を、ひとめみたい」 そう思った文次は、そっと戦場をぬけだしました。 そして、胸をはずませ、開善寺へいそぎました。 寺へ着くと、梅の花が咲いていました。 雪のように白い、美しい…

開善寺の早梅の精

[童話]開善寺の早梅の精 開善寺の早梅の精 3 村上頼平の家臣に、和歌をよむ風流な男がおりま した。 男の名前は、埴科文次。 武芸を学ぶかたわら、和歌の道にも精進していま した。 文次は、出征中にも、心に残る情景があると、そ れを歌によみました。 文…

開善寺の早梅の精

[童話]開善寺の早梅の精 開善寺の早梅の精 2 信州は冬の寒さが厳しく、春の訪れが遅い地でした。 そんな中、開善寺の早梅は、冬至前後に花が咲き ます。 早く咲く梅として有名でした。 小笠原貞宗は、時の帝・後醍醐天皇に、早梅をおく りました。 天皇はた…

開善寺の早梅の精

[童話]開善寺の早梅の精 開善寺の早梅の精 1 信州の伊那谷に、「開善寺」という禅寺があります。 梅・牡丹・藤など、美しい花が咲く寺として有名でした。 寺には、室町初期に建立された山門や、鎌倉式のみ ごとな庭園もあります。 開善寺は、建武二年(13…

火とぼし山

[童話]火とぼし山 「火とぼし山」を読んでいただきありがとうございま した。 「火とぼし山」は、信州の諏訪に伝わっている悲し い話です。 伝説をもとに、わたしなりの「火とぼし山」を書いて みました。 おおぜいのかたに読んでいただきたいと思います。 …

火とぼし山

[童話]火とぼし山 第七章 新しい出発 23 「気をつけて帰ってくださいね。明神さまによろしく」 きよは、二人の姿がみえなくなるまで見送りました。 「今日から、私の新しい生活が始まるのね」 きよは、そっとつぶやきました。 「そうじゃ。今日から、きよ…

火とぼし山

[童話]火とぼし山 第七章 新しい出発 22 すると、 「きよ、静岡へついたかな。おまえはこれからそこで 暮らすのじゃ。わしの友だちのばあさんと一緒にな。 きよ、記憶がもどったら、いつでも諏訪へもどってお いで。待っているぞ」 どこからか、明神さまの…

火とぼし山

[童話]火とぼし山 第七章 新しい出発 21 「きよ、よろしく」 おばあさんが、にこにこしながらいいました。 「こちらこそ、よろしく。お世話になります」 「こんなかわいい人と暮らせるなんて、私うれしいわ」 おばあさんはうれしそうでした。 「きよ。外へ…