2021-09-01から1ヶ月間の記事一覧

牛に乗ったお玉さま

[童話]牛に乗ったお玉さま 牛に乗ったお玉さま 4 しばらくすると、お玉の美しさが評判になり、あちこち から縁談がもちこまれるようになりました。 しかし、お玉は、両親のすすめる縁談をすべてことわ っていました。 「こんないい話はないのに。お玉、見合…

牛に乗ったお玉さま

[童話]牛に乗ったお玉さま 牛に乗ったお玉さま 3 お玉も、美しい着物をきて、黒の背にのり金龍院へお 参りに行きます。 坊さんは、かわいい娘が黒牛にのりお参りにやってく るのを、いつしか心待ちするようになりました。 「なんてかわいい、清らかな娘だろ…

牛に乗ったお玉さま

[童話]牛に乗ったお玉さま 牛に乗ったお玉さま 2 長者の屋敷から半里ほど離れた所に、「金龍院」とい う小さなお堂がありました。 お堂には、説話の上手な若い坊さんが住んでいました。 そのお堂の近くには、「仏沢の底なし池」とよばれる深 い池があります…

牛に乗ったお玉さま

[童話]牛に乗ったお玉さま 牛に乗ったお玉さま 1 昔、むかし。 小野から木曽へ通じる牛首峠のふもとに、「山口の 長者」とよばれる大きな屋敷がありました。 長者には、お玉という一人娘がいます。 谷間に咲いている白百合のような、清らかな可憐な 娘でし…

尾掛松

[童話]尾掛松 尾掛松 6 すると、明神さまが大きな声で笑いました。 「そうか。それはありがたい。信濃は遠いからのぅ。 じゃあ、わしは帰るぞ。後はよろしくな」 そういうと、明神さまは雲にのり、諏訪へ帰りました。 そして、諏訪湖の奥深く姿を消しました…

尾掛松

[童話]尾掛松 尾掛松 5 「明神さまが龍だってこと、知っていたかい」 「知らなかったな」 神様たちは、みんな驚いています。 「部屋に入ろうと思ったが、みんなを驚かしてはいけ ないと思い、天井にはりついていたのじゃ。今から降 りていこうか」 明神さま…

尾掛松

[童話]尾掛松 尾掛松 4 天井をみた神様たちは、「あっ」といったきり、真っ青 になりました。 天井の梁には、樽ほどもある太い龍が巻きついてい ます。 龍は、真っ赤な舌をぺろぺろだしていました。 「でかけようと思ったら、急用ができてのぅ。信濃は遠 い…

尾掛松

[童話]尾掛松 尾掛松 3 「明神さまはどうしたのじゃ」 「会議のことを忘れているのでは」 「病気かな」 「急用ができたのかも」 神様たちは、心配しました。 「一体いつまでわしらを待たせる気だ」 待ちくたびれた気の短い神様が、おこりだしました。 する…

尾掛松

[童話]尾掛松 尾掛松 2 ある年の十月。 「さて、遅くなってしまったが、出雲へ行ってくるか」 明神さまは、雲にのり出雲へ向かってとんでいきま した。 出雲では、すでに各地から神様たちが集まってい ました。 「会議を始めようと思うが、みなさまおそろい…

尾掛松

[童話]尾掛松 尾掛松 1 昔、むかし、ずぅーと昔。 神様たちが、日本の国をおさめていた頃のお話です。 陰暦の十月になると、神様たちは出雲の国に集まり会 議をしました。 神様たちは、思い思いの姿で出雲に集まります。 諏訪の明神さまも、毎年出雲の国へ…

赤い夕顔の花

[童話]赤い夕顔の花 赤い夕顔の花 60 「うー、わんわん」 突然、犬坊の目の前に、犬があらわれました。 白と黒のまだらな犬でした。 犬は、犬坊に向かって飛びかかってきました。 犬坊は、とっさにやりをかまえました。 すると、その犬の顔が、城主の盛永…

赤い夕顔の花

[童話]赤い夕顔の花 赤い夕顔の花 59 盛永さまは、なぜあんな寝言をいったのだろうか。 私は、盛永さまが誰よりも私を愛してくれていると思 っていた。 でも、盛永さまが愛していたのは、私ではなく奥がた のお万さまだったのだ。 だから、私は、しっとの…

赤い夕顔の花

[童話]赤い夕顔の花 赤い夕顔の花 58 その頃。 城主の盛永をやりで刺し殺してしまった犬坊は、むゆ う病者のようにふらふらと山の中をさまよっていました。 どこをどう歩いたのか、犬坊は思い出せませんでした。 疲れはてた犬坊は、木の切り株に腰をおろし…

赤い夕顔の花

[童話]赤い夕顔の花 赤い夕顔の花 57 「奥がたさま。盛永さまのことは、何も気にすることはありません。悪口をいいたい人には、いわせておけばよ いのです。人の口には、戸はたてられませんから」 そういって、そうべえはお万をなぐさめました。 「戦さえ…

赤い夕顔の花

[童話]赤い夕顔の花 赤い夕顔の花 56 父親の悪口を聞いた長五郎は、どう思っただろうか。 夫の盛永は、領民たちからそんなふうに思われてい たのか。 お万は、おばあさんのことばを思い出し、そっと涙を ふきました。 「奥がたさま。わしが夕顔の花をとっ…

赤い夕顔の花

[童話]赤い夕顔の花 赤い夕顔の花 55 「馬鹿なことをいう奥がたじゃ」 おばあさんは、にやにや笑いながらいいました。 お万たちは、「おさわがせし申し訳ありません」と頭を さげ、その家を去りました。 なんて心のせまいおばあさんなのでしょう。 ことわ…

赤い夕顔の花

[童話]赤い夕顔の花 赤い夕顔の花 54 あなたがいわれたようなことを、城主はおそらくしてい るのでしょう。でも、幼いこどもの前で、城主の悪口を いってはなりません。私は、あなたを許すわけにはい きません。来年、この家には、真っ赤な夕顔の花が咲 く…

赤い夕顔の花

[童話]赤い夕顔の花 赤い夕顔の花 53 おばあさんは、権現城の近くに住む親類の人から 聞いたといううわさを、次から次へと早口でまくした てました。 お万は、おばあさんの話を黙って聞いています。 「おばあさん。つれの者が、ことわりもなく夕顔の花 を…

赤い夕顔の花

[童話]赤い夕顔の花 赤い夕顔の花 52 おばあさんのことばを聞き、お万は「私も、盛永さまの 気持がわかりません」と、心の中でつぶやきました。 「殿様は、鹿狩りの最中、鉄砲や弓で何人もの人に けがをさせたそうじゃのう。不注意なのか、それともわ ざと…

赤い夕顔の花

[童話]赤い夕顔の花 赤い夕顔の花 51 「何、権現城の奥がただと。あのたわけた城主の妻か」 「おばあさん。口がすぎます。夕顔の花をとったのは、 奥がたではありません。このわしです。奥がたには関 係ありません」 そうべえが、おばあさんにいいました。…

赤い夕顔の花

[童話]赤い夕顔の花 赤い夕顔の花 50 「何、この人が、奥がただと。どこの奥がたじゃ。こん なうす汚いかっこうをして、奥がただなんて聞いてあ きれる。わしでさえ、そんな汚いかっこうはせんわ。 奥がただなどと、たわけたことをいうものではない」 おば…

赤い夕顔の花

[童話]赤い夕顔の花 赤い夕顔の花 49 おばあさんは、長五郎の手から、無理やり夕顔の花 をひったくりました。 長五郎は、何がおこったのかわからず、おびえてい ます。 「申し訳ございません。ことわりもなく、夕顔の花を一 ついただきました。どうか失礼…

赤い夕顔の花

[童話]赤い夕顔の花 赤い夕顔の花 48 「そうべえさん。それでは、どろぼうになってしまいま す。たとえ、夕顔の花一つでも、だまって人の物をと ってはいけません」 お万が、そうべえにいいました。 「奥がたさま。こんな時ですからしかたがありません」 …

赤い夕顔の花

[童話]赤い夕顔の花 赤い夕顔の花 47 やっと向方へつきました。 農家の庭先に、白い花が咲いています。 「何の花かしら」 近づいてみると、真っ白な夕顔の花でした。 「お母さま。きれいな花」 「長五郎。これは、夕顔の花ですよ。美しい花ね」 お万がいい…

赤い夕顔の花

[童話]赤い夕顔の花 赤い夕顔の花 46 「そうもいきません。下条の追手がくるかもしれません から。いっこくも早く浪合の実家へ帰りたいと思います」 「では、わしが、若君を背負いましょう」 そういって、そうべえは、長五郎を背負ってくれました。 そして…

赤い夕顔の花

[童話]赤い夕顔の花 赤い夕顔の花 45 「奥がたさま、さあどうぞ。何もありませんが、中でゆっ くり休んでください」 「では、遠慮なく休ませていただきます」 お万と長五郎は、そうべえの家で、二時間ほど休ませ てもらいました。 そうべえは、一人で暮ら…

赤い夕顔の花

[童話]赤い夕顔の花 赤い夕顔の花 44 「昨夜、権現城は、下条の夜討ちを受けました。私た ちは、浪合の実家に帰る途中です。家臣と一緒だっ たのですが、下条の追手を逃れているうちに、はぐれ てしまいました」 「奥がたさま。下条の夜討ちにあわれたので…

赤い夕顔の花

[童話]赤い夕顔の花 赤い夕顔の花 43 そうべえが顔を出しました。 でも、奥がたのお万だとわからないようでした。 うす汚れた野良着を着ているのですから、無理もあり ません。 「そうべえさん。私、権現城の奥がたのお万でござい ます」 「奥がたさま?」…

赤い夕顔の花

[童話]赤い夕顔の花 赤い夕顔の花 42 「長五郎、疲れたでしょ。だいじょうぶですか」 「だいじょうぶです」 「もうすぐ朝になりますよ。戸口へ着いたら、そうべえ さんの家へ寄り、少し休ませてもらいましょうね」 「お母さま。そうべえさんて、誰ですか」…

赤い夕顔の花

[童話]赤い夕顔の花 赤い夕顔の花 41 あの城は、領民たちの年貢で建てた城。 領民たちが、一つ一つ石を運こび苦労してつくった城。 その城が、燃えている。 城主の盛永が、あれほどまでに執着した城とは、一体 何だったのだろうか。 お万は燃えている城を…