2021-06-01から1ヶ月間の記事一覧

日本武尊と明神さまの弓

[童話]日本武尊と明神さまの弓 日本武尊と明神さまの弓 3 「おうすは、乱暴な恐ろしいこどもだ。こんなささいなこ とで、兄を殺してしまうなんて」 天皇は、心の中でつぶやきました。 そして、自分もいつかおうすに殺されるのではないか ・・・と、恐れてい…

日本武尊と明神さまの弓

[童話]日本武尊と明神さまの弓 日本武尊と明神さまの弓 2 「どのように伝えたのだ」 「何度も伝えました。でも、兄は食事の席に顔をだしま せん。しかたがないので、今朝がた、厠へ入るのを待 っていてつかまえました。抵抗したので、手足をもぎと り、こも…

日本武尊と明神さまの弓

[童話]日本武尊と明神さまの弓 日本武尊と明神さまの弓 1 十二代、影行(けいこう)天皇のこどもに、「おうすの みこと」という気性のはげしい乱暴な皇子がいました。 後に、熊襲たけるを討ち、日本武尊(やまとたけるの みこと)といわれたかたです。 ある…

井戸で鳴く黄金色のにわとり

[童話]井戸で鳴く黄金色のにわとり 井戸で鳴く黄金色のにわとり 27 大島城は、織田との戦で、焼失してしまいました。 城はありませんが、丸馬出し・三日月掘・枡形虎 口などの遺構が、今も残っています。 るり姫が身をなげた城の井戸からは、にわとりの 悲…

井戸で鳴く黄金色のにわとり

[童話]井戸で鳴く黄金色のにわとり 井戸で鳴く黄金色のにわとり 26 愛するわが子をなくした信廉は、戦をする気力をす っかりなくしてしまいました。 「わしの一生は、なんだったのだろう。大切なわが子 さえ守ってやることができなかった。戦国の世とはい …

井戸で鳴く黄金色のにわとり

[童話]井戸で鳴く黄金色のにわとり 井戸で鳴く黄金色のにわとり 25 「なぜだ」 「逃げているうちに、おつきのものとはぐれてしまっ たようです。そして、織田の兵士たちに、井戸の所 までおいつめられたようで・・・」 「そうか。かわいそうに・・・」 信…

井戸で鳴く黄金色のにわとり

[童話]井戸で鳴く黄金色のにわとり 井戸で鳴く黄金色のにわとり 24 うすれゆく意識の中で、姫は思いました。 「戦のない平和な世の中は、いつくるのだろう。一日 も早く、みんなが安心して暮らせる平和な世の中に なりますように」と。 次の朝。 「るり姫…

井戸で鳴く黄金色のにわとり

[童話]井戸で鳴く黄金色のにわとり 井戸で鳴く黄金色のにわとり 23 おとうさま、今まで大切に育てていただきありがとうご ざいました。おとうさまやおかあさまと過ごした日々、 とても楽しかった。おとうさま、そしておかあさま、あり がとうございました…

井戸で鳴く黄金色のにわとり

[童話]井戸で鳴く黄金色のにわとり 井戸で鳴く黄金色のにわとり 22 「姫さまー」 「姫さまー。どこにいるの」 おつきの人たちの声が、遠くから聞こえてきます。 織田の兵士たちが、姫をおってきます。 姫は城の北の断崖までおいつめられてしまいました。 …

井戸で鳴く黄金色のにわとり

[童話]井戸で鳴く黄金色のにわとり 井戸で鳴く黄金色のにわとり 21 「姫さま、さあ早く。だいじょうぶですか」 「私は、だいじょうぶ。みなさんは、私にかまわず逃 げて。一人でも多く助かってほしいの。今までいろ いろお世話になりました。ありがとう」 …

井戸で鳴く黄金色のにわとり

[童話]井戸で鳴く黄金色のにわとり 井戸で鳴く黄金色のにわとり 20 夜になりました。 「みなのもの、これ以上城にいても無駄じゃ。これか ら、みんなで故郷の甲斐へもどる。旅の用意をせいー」 信廉が、城内にいる人々につげました。 人々は、急いで旅の用…

井戸で鳴く黄金色のにわとり

[童話]井戸で鳴く黄金色のにわとり 井戸で鳴く黄金色のにわとり 19 「おぅー」 「おー」 織田の兵士たちは大声をあげ、再び大島城をせめ てきました。 火のついた矢が、あちこちからとんできます。 城に、再び火がつきました。 そして、城はたちまち火の海…

井戸で鳴く黄金色のにわとり

[童話]井戸で鳴く黄金色のにわとり 井戸で鳴く黄金色のにわとり 18 三十分後。 大雨により、城の火も消えました。 「やれやれ」 「火が消えてよかった。あのまま火が燃えていたら、 わしらは城内で全滅じゃ」 城内にいた人々は、ほっと胸をなでおろしまし…

井戸で鳴く黄金色のにわとり

[童話]井戸で鳴く黄金色のにわとり 井戸で鳴く黄金色のにわとり 17 耳がさけてしまいそうな、すさまじい雷でした。 「ぴかっ、ぴか」 「ぴかっ」 真っ暗な空に、いなずまが走ります。 なにかがいかりくるっているかのようでした。 「ぴしゃ、ぴしゃっ」 大…

井戸で鳴く黄金色のにわとり

[童話]井戸で鳴く黄金色のにわとり 井戸で鳴く黄金色のにわとり 16 「えいっ」 「えいーっ」 どしゃぶりの雨の中を、兵士たちは淵にむかって、何 千本もの矢をはなちました。 しかし、矢は淵に届かぬうちに、雨の中にすいこまれ てしまいます。 十五分後。…

井戸で鳴く黄金色のにわとり

[童話]井戸で鳴く黄金色のにわとり 井戸で鳴く黄金色のにわとり 15 「わぁーっ」 「すごい水柱だ!」 織田の兵士たちが、驚きの声をあげました。 空から、ぽつんぽつんと、大粒の雨が降ってきました。 そして、どしゃぶりの雨になりました。 「あんなに晴…

井戸で鳴く黄金色のにわとり

[童話]井戸で鳴く黄金色のにわとり 井戸で鳴く黄金色のにわとり 14 「神様、どうか大島城をお守りください。一刻も早く、 火が消えますように」 姫は、一心に祈りました。 どのくらいの時間がすぎたのでしょうか。 「るり姫。わしが、大島城を守ってやるぞ…

井戸で鳴く黄金色のにわとり

[童話]井戸で鳴く黄金色のにわとり 井戸で鳴く黄金色のにわとり 13 「きゃあー」 女の人たちの悲鳴が聞こえます。 一箇所火を消しても、すぐまた別の所から火の手が あがります。 城のあちこちが燃えはじめました。 城の中は、もうもうと煙がたちこめてい…

井戸で鳴く黄金色のにわとり

[童話]井戸で鳴く黄金色のにわとり 井戸で鳴く黄金色のにわとり 12 「みなのもの、矢の先に火をつけ、城をいよー」 織田の大将・信忠が、大声でさけんでいます。 「びゅーん」 「ばしっ」 「びゅーん」 「ビューン」 「ばしゃ、バシッ」 織田の兵士たちは…

井戸で鳴く黄金色のにわとり

[童話]井戸で鳴く黄金色のにわとり 井戸で鳴く黄金色のにわとり 11 「ぱか、ぱかっ、ぱか」 織田軍のひづめの音が、だんだんに近づいてきます。 「ひひーん」 「ひひーん」 馬のなき声も聞こえます。 「おー」 「おぅー」 兵士たちのさけび声も、風にのっ…

井戸で鳴く黄金色のにわとり

[童話]井戸で鳴く黄金色のにわとり 井戸で鳴く黄金色のにわとり 10 「なに? 織田軍が、近くまできていると。早く、み んなに知らせろ」 信廉が、みはりの人にいいました。 「みなのもの、戦が始まるぞー。三河の織田との戦 じゃ」 信廉が、大声でさけびま…

井戸で鳴く黄金色のにわとり

[童話]井戸で鳴く黄金色のにわとり 井戸で鳴く黄金色のにわとり 9 「吉岡城の下条が、織田に降参したらしい」 「松尾城の小笠原も、降参したそうだ」 「飯田城の保科が、高遠城へ逃亡した」 こんな知らせが、毎日のように、信廉の元へ届きま した。 「いよ…

井戸で鳴く黄金色のにわとり

[童話]井戸で鳴く黄金色のにわとり 井戸で鳴く黄金色のにわとり 8 「それはそうと、信忠はいつ伊那谷にせめてくるの じゃ」 「さあ、わかりません。戦の準備をしておくようにとの 知らせでございます」 信廉が、知らせにきた人と、小声で話しています。 い…

井戸で鳴く黄金色のにわとり

[童話]井戸で鳴く黄金色のにわとり 井戸で鳴く黄金色のにわとり 7 天正十年(1582年)二月。 大島城に、戦の知らせが届きました。 織田軍が、伊那谷へせめてくると。 「織田というと、信長か?」 「いや、長男の信忠じゃ」 「信忠か・・・」 「信忠とい…

井戸で鳴く黄金色のにわとり

[童話]井戸で鳴く黄金色のにわとり 井戸で鳴く黄金色のにわとり 6 父から戦の話を聞くたびに、姫は心の中でさけび ます。 「私は、武将の娘。でも、私は、戦が大きらい」と。 そして、「一日も早く、みんなが安心して暮らせる 世の中になりますように」と、…

井戸で鳴く黄金色のにわとり

[童話]井戸で鳴く黄金色のにわとり 井戸で鳴く黄金色のにわとり 5 そして、その日も、にわとりと一緒に、淵のみえる場所 へ行きました。 「こっこ、おいでー」 にわとりは、「こっこっこ」と鳴きながら、姫の後をつい てきます。 「私は、歌をよみ、絵を描…

井戸で鳴く黄金色のにわとり

[童話]井戸で鳴く黄金色のにわとり 井戸で鳴く黄金色のにわとり 4 「まあ、いいだろう。でも、くれぐれも気をつけておくれ。 それから、もう一つ」 姫は、なんだろうと思いました。 「大蛇ケ淵へ、近づかないように」 「なぜ、淵へ近づいてはいけないの」 「…

井戸で鳴く黄金色のにわとり

[童話]井戸で鳴く黄金色のにわとり 井戸で鳴く黄金色のにわとり 3 にわとりは天守閣にとまると、「こけこっこー」「コケコ ッコー」と、大声で時をつげました。 「あっ、こっこの声だ。こっこ、おはよう」 姫は、にわとりの声で、目をさましました。 「姫さ…

井戸で鳴く黄金色のにわとり

[童話]井戸で鳴く黄金色のにわとり 井戸で鳴く黄金色のにわとり 2 城代は、武田信廉。 信玄の弟でした。 信廉は、和歌や書・絵・彫刻などをたしなむ風流な 人でした。 城には、るり姫という心のやさしい姫がいました。 梅の花が何輪か咲き始めた春の日。 東…

井戸で鳴く黄金色のにわとり

[童話]井戸で鳴く黄金色のにわとり 井戸で鳴く黄金色のにわとり 1 信州の伊那谷、大島の里に、古い城がありました。 城の名は、大島城。 平安時代末期につくられた城でした。 天竜川の水がうずまく「大蛇ケ淵」をのぞむ段丘の上 にあったので、「台城」とも…