2020-01-01から1年間の記事一覧

火とぼし山

[童話]火とぼし山 第四章 一ヶ月に一度の出会い 2 何時間もかけ、やっと次郎の所へつきました。 「次郎さん。今夜は、湖のまわりを歩いてきたの。だ から、遅くなってしまった。次郎さん。会いたかったわ」 「きよちゃん。遠い所をご苦労さま。待っていたよ…

火とぼし山

[童話]火とぼし山 第四章 一ヶ月に一度の出会い 1 寒さの厳しい諏訪にも、ようやくあたたかな春がやっ てきました。 諏訪湖の氷も、とけはじめました。 今日は、次郎と会う日。 きよは、湖のまわりを歩いていくことにしました。 湖のまわりを歩くと、氷の上…

火とぼし山

[童話]火とぼし山 第三章 湖の上を歩く娘 9 次の朝。 きよは、さみしそうに家に戻って行きました。 次郎は、きよのさみしそうな姿をみるたびに、心が 痛みます。 でも、住みこみで働いている次郎には、どうするこ ともできませんでした。 湖に氷がはってい…

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[童話]火とぼし山 第三章 湖の上を歩く娘 8 「明神さま。その娘は、どこに住んでいるのですか」 「どこに住んでいるか、わしも知らん。今夜会ったば かりだから。でも、湖の東側に住んでいることだけは たしかじゃ。名前は、きよというらしい」 「じゃあ、…

火とぼし山

[童話]火とぼし山 第三章 湖の上を歩く娘 7 「氷の上を歩く娘? 明神さま。湖の氷は、まだ薄い。 氷の上を歩くなんて、危険です。こんな寒い日に、湖 に落ちれば死んでしまいますよ」 足長が、心配していいました。 「だから、娘が湖に落ちないように、二人…

火とぼし山

[童話]火とぼし山 第三章 湖の上を歩く娘 6 「湖の氷は、まだ薄い。娘が湖に落ちたら大変だと 思って、そっと後をつけたのじゃ。娘は、青年に会 うために、山の中へ入っていった。うらやましいくら い仲のいいカップルだったよ」 明神さまは、奥さんに娘の…

火とぼし山

[童話]火とぼし山 第三章 湖の上を歩く娘 5 「ほんとに仲のいいカップルじゃのぅ。みていても、 うらやましいくらいじゃ。娘の名前は、きよ。青年 の名前は、次郎というのか。やさしそうな、感じの いい娘じゃのぅ。娘のあのうれしそうな顔。なんて すてき…

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[童話]火とぼし山 第三章 湖の上を歩く娘 4 「次郎さん。はい、お酒」 「お酒?」 「寒いから、次郎さんに飲んでもらおうと思って、持 ってきたの」 きよは、小さなとっくりを、次郎にわたしました。 「うまいっ」 次郎は、うまそうに酒を飲みました。 「き…

火とぼし山

[童話]火とぼし山 第三章 湖の上を歩く娘 3 無事に湖をわたりおえた娘は、裏山に向かって歩 き始めました。 娘は、急な坂道をどんどん登って行きます。 「なんて足のはやい娘だろう」 明神さまは、小声でつぶやきました。 「次郎さん、こんばんは」 「きよ…

火とぼし山

[童話]火とぼし山 第三章 湖の上を歩く娘 2 「娘か。こんな寒い夜、あの娘はどこへ行くのだろう」 娘のことが気になった明神さまは、そっと娘の後をつ けました。 「みしっ」 「ばりっばりっ」 「ぱり」 娘が歩くたびに、氷の割れる音がします。 「あぶない…

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[童話]火とぼし山 第三章 湖の上を歩く娘 1 北風が吹く寒い季節になりました。 諏訪湖には、氷がはっています。 今日は、次郎と会う日。 きよは、湖の氷の上を歩いて行こうと思いました。 でも、湖の氷は薄く、氷の上にのぼると、「みしっ」 「ばりっ」と音…

火とぼし山

[童話]火とぼし山 第二章 再会 7 「十日後なんて、いや。私、毎晩でも次郎さんに会い たい。だって、引っ越しをする前は、毎日次郎さんと 会っていたんだもの」 きよが、さみしそうにいいました。 「じゃあ、五日後に会おう。きよちゃん。会えるのを楽 しみ…

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[童話]火とぼし山 第二章 再会 6 「次郎さん。野良の仕事は、疲れるでしょ」 「なれない仕事だから疲れる。夜になると、体中が 痛くて」 腰をさすりながら、次郎がいいました。 「次郎さん。体だけは気をつけてね」 「きよちゃんもね」 二人は、別れてから…

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[童話]火とぼし山 第二章 再会 5 「次郎さん。今、どんな仕事をしているの」 「田んぼの草取りや、野菜の収穫をしている。蚕も 飼っているよ」 「蚕を?」 「おらが働いている家では、蚕をたくさん飼ってい る。桑の葉をつむのは、おらの仕事なんだ。きよち…

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[童話]火とぼし山 第二章 再会 4 「はい、次郎さん。むすびよ」 「むすび?」 「次郎さんに食べてもらおうと思って、持ってきたの。 食べて」 きよは、次郎にむすびをわたしました。 「うまいっ」 「おいしいでしょ。次郎さん」 「うん、うまい。きよちゃん…

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[童話]火とぼし山 第二章 再会 3 家を出てから、どのくらいの時間がたっているので しょうか。 「次郎さん。会いたかったわ」 きよは、次郎にかけよりました。 「きよちゃん。ほんとにきてくれたのだね。ありがとう。 おらも、きよちゃんに会いたかった」 …

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[童話]火とぼし山 第二章 再会 2 「次郎さん。早く火をたいてね」 きよは、心の中で祈りました。 西山に、ぽっと小さな火がともりました。 次郎と約束していなければ、みのがしてしまいそうな 小さな火でした。 「あっ、次郎さんだ。約束通り火をたいてくれ…

火とぼし山

[童話]火とぼし山 第二章 再会 1 七日が過ぎました。 今日は、次郎と会う日。 早めに仕事を終えたきよは、西山に太陽が沈む頃、 次郎が住む西の村に向かって出発しました。 「とうちゃん、かあちゃん。行ってきます」 「きよ、気をつけて行くのだよ。次郎君…

火とぼし山

[童話]火とぼし山 第一章 次郎、西の村へ 8 「きよちゃんと次郎ちゃんは、ほんとに仲がいいね。 兄と妹みたい」といわれて大きくなりました。 二人は、花が大好き。 休みになると、霧ケ峰高原へ花をみに行きました。 春は、座禅草を。 初夏には、れんげつつ…

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[童話]火とぼし山 第一章 次郎、西の村へ 7 「次郎さん。お願いがあるの。私と会う日には、大き な火をたいてほしいの。私、その火を目印にして訪 ねて行くから」 「目印に火か。いい考えだね。でも、遠くから火が見 えるかな」 「夜になれば、真っ暗だわ。…

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[童話]火とぼし山 第一章 次郎、西の村へ 6 「えっ、きよちゃんが」 「次郎さんは、休みがないんでしょ。だったら、私が 会いにいく」 「でも・・・きよちゃんは、女の子。暗い夜道を何時間 も歩かなくてはならないのだよ。きよちゃん、夜道を 一人で歩ける…

火とぼし山

[童話]火とぼし山 第一章 次郎、西の村へ 5 「どこへ引っ越すの」 「諏訪湖の西にある村。さっき、白鷺が飛んでいっ た方向にある村だよ」 西の山を指さし、次郎がいいました。 「私、次郎さんと別れるなんて、いや。絶対にいや」 きよは、次郎と離れて暮ら…

火とぼし山

[童話]火とぼし山 第一章 次郎、西の村へ 4 「次郎さん。話って、何?」 「おれ、引っ越すことになった」 次郎が、早口でいいました。 「えっ?」 きよは、次のことばが出ませんでした。 「いい仕事がみつかったんだ」 「どんな仕事なの」 「大きな農家で、…

火とぼし山

[童話]火とぼし山 第一章 次郎、西の村へ 3 「二回目に行った時も、福寿草の花はなかなかみつ からなかった。あきらめて帰ろうとした時、ふもとの畑 の土手に、黄金色の花が咲いていた。きれいだった ね」 きよと次郎は、土手一面に咲いていた福寿草の花を…

火とぼし山

[童話]火とぼし山 第一章 次郎、西の村へ 2 「次郎さん。諏訪湖の西といったら、何を思い出す?」 「守屋山かな」 「私も」 「何年か前、福寿草をみに、守屋山へ行ったことがあ ったね」 「おぼえている。あれは、七年前の春。私が十才、次 郎さんが十五才…

火とぼし山

[童話]火とぼし山 第一章 次郎、西の村へ 1 「次郎さん。みて、白鷺よ」 「白鷺?」 「ほら、あそこ」 きよが、諏訪湖の上空を指さしました。 白鷺が二羽、西山にむかって飛んでいます。 「白鷺って、美しい鳥だね」 「私、白鷺が大好き。次郎さんは、白鷺…

火とぼし山

[童話]火とぼし山 プロローグ 2 次の朝。 「なんだ、これは?」 「すごい割れ目だね」 湖をみた人々は、びっくり。 湖の氷が割れていたのです。 氷がせりあがり、いくえにもかさなりあっています。 大きな氷の山は、こどもの背丈ほどありました。 小さな山…

火とぼし山

[童話]火とぼし山 プロローグ 1 星のきれいな夜でした。みしっ、みしっ。 ぱりっ。 バリバリッ。 ばしゃっ。諏訪湖の方から、大きな音が聞こえてきました。 「あなた。明神さまは、今夜も奥さまのところへでか けたのね」 「奥さまのことが心配なのだろう。…

竹取物語

「竹取物語」を読んでいただきありがとうございました。 竹取物語https://dowakan.hatenablog.com/entry/2020/08/18/070000 斎木雲州著「古事記の編集室」の 44-46ページに、 竹取物語(かぐやひめ)について書いてあります。 ぜひ読んでいただきたいと…

竹取物語

[童話]竹取物語 帝、不死の薬を高い山で焼く 4 帝は、その山頂ですることを、勅使に教えました。 不死の薬の壺と手紙を並べて、火をつけ燃やすよ うにと、命令したのです。 帝の命令で、おおぜいの兵士を引き連れて山に 登ったことから、この山を「士に富む…