火とぼし山

[童話]火とぼし山


第七章  新しい出発 19


「そうじゃ。きよは、自分の名前も、大好きだった次郎
のことも、何もおぼえていない。記憶がなくなってしま
ったきよを、ここへおいておくわけにもいくまい。きよが
生きていることを知ったら、次郎が何をするかわからな
いしな」
明神さまがいいました。


「やはり、きよは何もおぼえていないのですね。自分の
名前も、大好きだった次郎のことも、みんな忘れてしま
ったなんて。かわいそうに」
手長は、きよの気持を思うとやりきれません。
「手長、足長。そういうわけなので、きよが眠っている
間に、静岡までつれていってほしい」
「はい、わかりました」
手長と足長は、ぐっすり眠っているきよを、静岡までつ
れていきました。

 
               つづく