火とぼし山

[童話]火とぼし山


第六章  湖を泳ぐ娘 9


「きよちゃんは、いつもそんなふうに祈っているの」
「祈っているわ。次郎さんのことも、元気で暮らせま
すようにと、毎日祈っている」
きよのことばを聞き、次郎は思いました。
おらは、暗い夜道を、何時間もかけて訪ねてくるき
よちゃんのことを、一度でも祈ったことがあっただろ
うかと。


「次郎さん。私ね、湖を泳いでいると、魚になっちゃ
ったのかなって、思う時があるの」
「魚になる?」
「そんな時は、すーいすーいと、早く泳げるの。誰か
が、たぶん神様でしょうね。私を守っていてくれるの
だなって思うわ」
「きよちゃんが、魚に? そんなばかな」
そういって、次郎はだまってしまいました。

 
             つづく